聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)とは?
聴神経とは、聞こえる音の情報を脳に送る蝸牛神経(かぎゅうしんけい)と、平衡感覚(へいこうかんかく)についての情報を送る前庭神経、2種類の神経の総称です。これらの神経に生じる腫瘍を聴神経腫瘍と呼びます。大部分は前庭神経から生じるので、前庭神経鞘腫とも言われます。それらのほとんどが良性腫瘍です。
聴神経腫瘍は、神経膠腫(しんけいこうしゅ)、髄膜腫、下垂体腺腫に次ぎ、4番目に多い脳腫瘍で、約10%と比較的発生率が高いです。発生率は10万人に対して1人程度とされていますが、最近はMRIの発達によって早期に発見されることも多くなっているので、実際はもう少し発生率が高いと考えられます。
聴神経腫瘍の症状
腫瘍が神経を圧迫、もしくは破壊することによって、耳鳴りや難聴、めまいを発症します。また、腫瘍が大きくなると、顔面神経の麻痺や顔面のけいれん、知覚麻痺などを生じるほか、脳を圧迫することで歩行障害や意識障害を生じることもあります。
聴神経腫瘍の検査
CTやMRの検査では、内耳道という聴神経が通る穴の付近に腫瘍を確認することができます。また、聴力や耳の脳波を検査して、耳がしっかりと機能しているか詳しく調べます。
最近の手術例
60代男性 主訴:ふらつき、左聴力損失、左軽度顔面神経麻痺(H-B grade1)
(患者さんより承諾を得て公開しております)
MRI:長径5cm大の聴神経腫瘍(Koos分類 gradeV) 内耳道の拡大の脳幹と小脳の圧迫を認める
MRI画像(左:造影、右:CISS)
聴神経腫瘍の治療法
一般に聴神経腫瘍の治療法には、手術と放射線治療の2つがあります。聴神経腫瘍のほとんどが良性腫瘍であり、1年で平均1-2mm程度しか大きくならないことが多いので、発見されたときに腫瘍があまり大きくなければ、どの程度の早さで大きくなるか、しばらく経過を見ることもあります。
手術
腫瘍がすでに大きく、脳を圧迫して症状が出ている場合は、手術を考慮します。理事長がドイツ臨床留学で学んだ聴神経腫瘍の世界的権威であるProf.Samiiと同じ手術方法を導入し、より安全に手術を行うことが出来ます。この手術法では従来の手術法と比べて、出血が少なく短時間で手術がすることができ、患者さんへの負担が少ないのが特徴です。また手術中にナビゲーションシステムや神経を刺激する神経モニターを使用して聴力や顔面神経を温存します。
術後6か月後のMRI (造影と CISS)
ナビゲーションシステムと術中神経刺激モニターを使用し左顔面神経機能(H-B grade1)を温存した。腫瘍は内耳道内を含めて顕微鏡下で全摘出した。
放射線療法
放射線治療には、ガンマナイフやサイバーナイフといった局所的に放射線を当てる特殊な装置を用います。この治療は体への負担が少なく、体力のない患者さんや他の病気を患っている患者さん、高齢の患者さんには有効な治療法で、治療に要する時間も手術に比べて短くて済むという特徴もあります。しかし、全ての患者に効果があるわけではなく、さらに腫瘍が小さくなるまでに時間がかかるという欠点があります。また、放射線による副作用として、聴力低下、めまい、顔面神経麻痺などが挙げられます。
これらのことを踏まえて、当院では症状が出ないようにすることを前提に、基本的にまず手術で腫瘍を出来るだけ摘出し、手術後に残った腫瘍や、再び大きくなった腫瘍には放射線療法を検討するという方針で治療しています。
まずは外来受診を
耳鳴りや難聴の症状のある方は聴神経腫瘍の可能性があります。まずは当院に相談してください。いままでの豊富な経験に基づいて聴神経腫瘍に対しての治療に対して診察やセカンドオピニオンも随時受け付けております。