脳梗塞
近年では若年層にまで広がりをみせる最も警戒すべき病気となっています
脳梗塞は脳内の血管が何らかの要因で詰まりを起こし、その一帯の脳細胞が死滅してしまう病気です。一般的に脳梗塞は一度なると繰り返し起きる可能性の高い病気として知られています。近年では脳卒中で倒れられる全患者さんのうち、実に75%にものぼる方に脳梗塞がみられるというデータもあるほど増加しているのが特徴的です。
脳梗塞を引き起こす主原因
生活習慣病
食事の欧米化に伴い、塩分や脂肪分の多く含まれた食品が私たちの食卓にも広く浸透しています。そのため高血圧や糖尿病、高コレステロール血症といった生活習慣病を患う患者さんが年々増加しています。昨今では若年層の患者数も急増していることが注目されています。生活習慣病はもはや中高年だけが警戒すべき病気ではありません。生活習慣病は全身に関わる病気ですから全身を走る血の巡りにも異常をきたしやすくなります。当然のことながら脳内も同じく、動脈硬化や血栓(血の塊)ができやすくなるなど重大な損傷が起きやすくなります。特に高血圧・糖尿病・高コレステロール血症を含む生活習慣病や、喫煙習慣、過度なアルコールの摂取、運動不足による肥満などは動脈硬化や血栓を生じさせる最も危険な因子となります。まずは摂生を心がけ、生活習慣病を未然に防ぐことが大切です。
心臓病
不整脈などの心臓病は心臓内に血栓を作りやすくなります。血栓は突然シャワー状に心臓から全身に飛び散るように血管内を進んでゆきます。その道中、流れが悪くなっている場所や血管がもろくなっているような場所に詰まり、正常な血流を遮断します。特に脳血管において生じた場合には脳細胞が死滅し、麻痺や意識障害など重大な事態を引き起こす可能性が高まります。
熱中症
近年の地球温暖化による夏の酷暑のために、熱中症から脱水症をおこし脳梗塞を起こす患者さんか急増しています。
理事長Dr.市村がテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」にスタジオ生出演し、熱中症との梗塞について解説しました。
脳梗塞によって起きる代表的な障害
脳梗塞を発症した場合には後遺症が残るケースがとても多いです。脳の損傷した部位によっても引き起こされる症状はさまざまで、軽度であっても以下のような異常を感じられた場合には直ちに適切な治療の開始が求められます。
運動障害
体の左右どちらかに急に力が入らなくなる・ものを取り落としやすくなる・本人は真っ直ぐに歩いているつもりが斜めに傾くようになってしまう・ものにつまづきやすくなる・ふらつく など
感覚障害
左右どちらかの手足にしびれを感じる・痛みを感じにくい・熱い冷たいといった温度差を感じにくい など
視覚障害
ものが二重に見えるようになる・視野が狭くなる・視野に欠けがある など
言語障害
言葉がうまく出てこなくなる・ろれつが回らない・人の話が理解しづらくなる など
脳梗塞の種類
脳梗塞は一般的に以下の3種類に分類されます。
心原性脳梗塞
主に心臓の不整脈によって引き起こされる脳梗塞です。心臓の心房部分が小刻みに震えを起こすことによって(心房細動)心臓内に血栓(血の塊)ができやすくなります。心房細動は加齢とともにどうしても起きやすくなるもので、それを発端として心臓から脳に大小の血栓が突然ばらまかれるように飛び散って脳梗塞を引き起こします。特に太い血管に大きな血栓が詰まった場合には突然重篤な事態に陥る危険があります。治療法としてはまずは心臓の不整脈の治療を行うとともに、危険な血栓を作らないように抗凝固薬と脳保護剤を内服するなどして予防的治療を行います。
アテローム血栓性脳梗塞
脳や首にある太い血管が動脈硬化を起こし、血液の通り道が狭まったり詰まりを起こしやすくなることで引き起こされる脳梗塞です。言語障害や麻痺、一時的な失明を起こすケースが多くみられるのも特徴的です。動脈硬化は生活習慣病と切っても切れない深い因果関係を持ちます。生活習慣病が進行している場合には再発しやすいため注意が必要です。まずは脳内の血管の様子を明らかにするため、MRIやMRAなどといった専門性の高い検査機器を用いて詳細に分析し、あわせて頸動脈エコーを用いて全体の血の流れを確認します。脳保護剤と抗血小板薬を用いて血液をサラサラにして流れやすくする治療が必要となります。
ラクナ梗塞
穿通枝と呼ばれる15mm以下の小さな血管が詰まりを起こす脳梗塞です。ご本人は無症状である場合もあれば、手足の麻痺などの後遺症が残ることも多くあります。頻度も多く、決して“楽な”脳梗塞ではないため油断はできません。ラクナ梗塞ができ始めるということは本格的な脳梗塞が差し迫っている可能性が高まっているということです。生活習慣の見直しを図るほか、喫煙や脱水などによっても引き起こされやすいものです。ご自身でできる最大限の改善をすぐにでも開始する必要があります。治療においては脳保護剤と抗血小板薬が用いられることが一般的です。
もうひとつ、脳梗塞の前兆とされる注意すべき病をご紹介します。
一過性脳虚血発作(TIA)
血管内で血栓による一時的な詰まりが起きたものの、幸いにも血栓が溶解して血流が再開される状態を言います。症状の持続時間は5~10分程度と短く、ほとんどの場合は1時間以内で治まります。そのため患者さんご自身も何が起きたのか理解ができないまま症状が一時的に治まるため、危険な状態であったという認識も薄らぎがちとなります。しかし、これは本格的な脳梗塞を引き起こす前兆として恐れられている状態です。まずは原因を正しく突き止め、それに応じた適切な治療を一刻も早く開始することがとても重要です。
いずれの場合であっても生活習慣病の有無をまずは正しく精査し脳内や頸動脈の血流を正しく評価する必要があります
脳内は非常に複雑な構造をしており、損傷が起きた場所によっても症状がさまざまに異なります。その結果、治療法も複雑に分かれており、重症の場合には緊急の手術を用いた治療が必要となる場合もあります。
脳梗塞治療の難しさ
脳梗塞の治療においては基本的に入院治療が必要となります。脳梗塞は一度なると繰り返し起こりやすい病気として知られており、さまざまな専門的な検査を通じて経過を注意深く見守る必要があります。治療においても点滴を用いた薬剤投与など、専門性の高い知識と技術を要するだけでなく、複雑な血流状態の精緻な確認が並行して行われます。これ以上の重篤な事態を招かないためのさまざまな対策を講じることが治療においては最優先課題となります。当法人は川崎院に入院施設があるため迅速な入院治療が可能です。さらにカテーテルを用いた血栓回収治療など高度な治療が必要と判断された場合には、スピード感を大切にしながら近隣の提携医療機関にご紹介させていただきます。
軽症であっても重大な危機が差し迫っている可能性も―
けっして油断してはならない危険な病気です
20年近くにもわたり脳梗塞で運ばれてくる患者さんの治療に数多く携わってきた経験の中でいつも感じるのは、「軽度な症状であっても決して見逃してはならない」ということです。特に一過性脳虚血発作(TIA)は多くの患者さんがご自身の状況を正しく理解されないままに過ごされ、取り返しのつかない事態になって再度運ばれてくるという悲劇を何度も目にいたしております。そのたびに私たちも胸がつぶれるほどつらく、悔しい思いにさいなまれます。症状が一時的に軽快したからといって放置すれば、いずれ必ず命に関わる重篤な事態が訪れます。脳梗塞は入院治療が必要となる病気です。ご自身のかけがえのない未来を守るためにも、ぜひしっかりと内容をご理解いただいた上で治療に真摯に向きあっていただきたいと切に願います。